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大阪家庭裁判所 昭和36年(家)4788号 審判

本籍 無国籍 住所 大阪市

申立人 森啓斉(仮名)

最後の住所 中国

不在者 金俊英(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立理由の要旨は、申立人は昭和一八年頃金俊英と内縁関係を結び、当時申立人の郷里であつた中国山東省福山県東関に居住していたが、戦乱に会い同一九年一月同人と生別し、それ以後現在までその消息を聞かず、同人はすでに死亡しているものと考えられるので、失踪宣告の審判を求める、というのである。

よつて審案するに、調査の結果によると、

(1)  申立人は、金俊英が申立人より年長でありまた同女との結婚に両親の同意が得られなかつたので、法定の婚姻手続をとることなく同女と事実上の結婚をし、同女との間に二男をもうけ昭和一八年頃山東省福山県東関で生活していたが、今次大戦の戦禍を避けるため、同一九年一月頃同地で妻子と生別して香港に赴き、戦後来日したもので、上記一九年頃以降同人らの消息を全く聞かずまた音信することなく現在に至つたこと、

(2)  金俊英は昭和七年以降来日したこともなく、また日本になんら財産を有しないこと、

(3)  申立人は日本に帰化するため中国籍を離脱し現在無国籍となつていること、および昭和三五年一一月福田小夜と挙式の上親族知人らに披露して事実上の結婚をしそれ以来夫婦として同居してきたこと

が認められ、してみると、申立人と金俊英との内縁関係は昭和一九年一月頃か遅くとも同三五年一一月に解消されていること明らかである。蓋し、内縁の解消自体は事実上の問題であるから、内縁当事者の一方又は双方の意思又は行為によつて解消状態が確認される以上、内縁関係はすでに解消されたものとみるべきだからである。

ところで失踪宣告の管轄権は原則として不在者の本国にあるが、不在者の本国以外の国に管轄権が全く認められないとすると、本国で失踪宣告がなされない以上、他の国ではその不在者の身分上および財産上の法律関係をいつまでも不確定のままに放置せざるを得ないこととなるので、かかる不都合を避けるために、わが法例第六条は一定の事由ある場合に例外的にわが国がかかる失踪宣告の管轄権をもつことを定めた。すなわちわが国の裁判所は外国人の生死が分明でないときに(1)外国人の財産が日本にある場合か、(2)日本の法律によるべき法律関係のある場合に限つてはじめて不在者たる外国人の失踪宣告をなし得べきところ、上記認定の実情にてらし、不在者によつて残された財産はなにもなく、申立人と不在者との間に法律上の婚姻関係は存しないしまたその間の内縁関係はすでに消滅したこと明らかであつて、日本法(無国籍者たる申立人の代用本国法)を準拠法とすべき法律関係はなにもないから、本件申立は上記(1)(2)のいずれにも該当しないというべきである。(申立代理人は帰化手続上不在者との配偶関係の解消を整序し明確にする必要があるので、なお日本法に準拠すべき法律関係が残されていると主張するが、その関係の解消していること前叙のとおりであるから、その主張は理由がない。)

よつて本件申立については、わが法例第六条に則つてわが国の裁判所が失踪宣告をなし得べき場合でないので、これを却下することととし主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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